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Posted by やこ in - 2008-12-31 4:14
すべての犯罪者はアルカディアと呼ばれる牢獄に入れられていた。獄舎は無機的な石造りで薄暗く、風通しが悪いためじめじめしていたが、天井の中央に小さな窓が備え付けられていた。それは少なからず外出を禁止されていた入獄者たちの心を慰めた。あるとき、いたづら好きの看守は花好きな一人の入獄者に花の種を与えた。「君の好きな花の種を与えよう。咲かせてみせたまえ」。看守が卑しい笑みを浮かべる一方でその入獄者はたいそう喜んだ。しかし花を咲かすことができるような場所はどこにもなく、彼は思い悩んだ。それから暫く経った頃、深夜になってぼんやりと窓を見ながら彼は気付いた。「大地はあそこにあるじゃないか。そうだ月に種を植えよう。月に花が咲けばここにいるみんなすべてが見ることができる」その時代は、まだ月の大きさやこの地球からの距離、天体という考え方すら全く知られていない頃。彼は看守に言った。「あの月にこの種を植えようと思う。少しだけ月に行かせてもらえないか?」「入獄者はこのアルカディアから抜け出ることは禁止されている」「抜け出る必要はない。月はすぐそこにある。梯子を貸してくれればいい」彼の話に少し興味を持った看守は梯子を彼に貸した。天井の窓に届くように梯子を固定して彼はゆっくりと一段一段上り、窓から月の方へ手を伸ばした。看守は言った。「どうだ、種は植えられたか?」しばらく間があり彼は答えた「植えることができる。1ヶ月後にはやがて綺麗な花が咲くだろう。他の入獄者にもそう伝えてほしい」彼が月に花を植えたことはすぐさま多くの人々に伝わった。ある者はどのような花が咲くのか想像し、ある者は窓から月が見える時間帯は必ず起きているようにした。それから数ヶ月が経った。しかし一向にして花は咲かなかった。「どうして咲かない?お前は嘘をついたのか?」「嘘ではない。私は間違いなく月に種を植えた」「お前は1ヶ月と言ったのに咲かない。嘘つきは諸悪の一つであるから更正の余地なしとしてお前を死刑にする」獄舎よりもさらに陰鬱な場所に連れていていかれた彼は間もなく処刑された。
おとぎ話の一つだったと思う。どうして知っているのかもよく覚えていない。その後、死刑にされた入獄者が埋葬された土の上に綺麗な花が咲くという結末だった。彼は嘘をついた。その嘘の理由は明白だと思う。そしてその理由は獄舎という環境と対比されてより一層際立って美しい。いま思うとこの話の舞台はある牢獄という限定された場所ではなく、この理想郷という名前が与えられている牢獄そのものが世界のすべてなんだと思う。すべての人々が罪人から出発しているという発想。そして罪人が嘘をつき、罪を重ねたことで罰を受ける。こういう一連の流れはいまの世界の様相と大差ないけど、彼が付いた嘘は、そういう世界にあってどういった見え方をするのかと、この話を知った人に改めて考えさせる。「嘘が罪ではない。不必要な嘘が罪なのだ」




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